【怪談】覗く子供

2022年09月18日
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Story
 これは、犬鍋九十九が遭遇した実話である。

 ある冬の日の朝、犬鍋九十九は出勤途中で渋滞に足留めされてしまう。
 しかしその道は元々町の主要道路であり渋滞も日常茶飯事だったことから
 その日も時間的余裕を持って家を出、のんびりと前の車の動きを眺めていた。
 そんな時にふと……思わぬ場所から自身に向けられている視線に、気付いた。

 自分と同じく渋滞にはまっている目の前の黒色のミニバン。
 その広い後部窓から、1人の男の子がこちらを凝視している。
 頭には黄色い園児帽。恐らく登園途中なのだろうと思われた。
 そんな男の子が、後部座席の右端に膝立ちの格好で顔を覗かせ
 すぐ後ろでハンドルを握る犬鍋九十九を、ジッと見つめていた。
 『もし遭遇しても目を合わせ、気付いたことを悟られてはいけない』
 ――というのは、幽霊と遭遇した際のよく聞く注意事項ではあるが、
 目の前の男の子はどう見ても幽霊ではない。実際に視たことはないが。
 そのような油断と渋滞での退屈から、つい”首を傾げる”という動作で
 男の子に”こちらも気付いている”という意思表示を行ってしまった。

 途端に笑顔を浮かべる男の子。渋滞でよほど暇を持て余していたのか、
 次いで手を振り……こちらが手を振り返すと更に興奮した様子を見せた。
 そして不意に、拳をリズミカルに振り始める。――まさか、ジャンケンか?
 声は聞こえないが、間違いなく「最初はグ~」からの「じゃんけん、ぽん」。
 当然ながら運転中のジャンケンなど論外。しかし身動きの取れない渋滞の中、
 犬鍋九十九はこの売られた喧嘩……もといジャンケンに付き合うことにした。

 声無き「最初はグ~」でタイミングを計り、「じゃんけん、ぽん」で雌雄を決する。
 もちろん勝てば更にはしゃぐ男の子に対し、こちらも勝てば大袈裟に喜んで見せる。
 そんな静かな攻防戦を幾度か重ねた頃――不意に事態は一変する。男の子のすぐ横、
 広い後部窓の中央部に、同じ園児帽を被った女の子がひょっこりと顔を覗かせたのだ。
 先の男の子と一緒に登園中だった姉妹か友達が、隣の騒ぎに興味を持ったようだった。
 男の子が女の子に事情を説明する。――と2人がこちらへ向き直りジャンケンが再開。
 しかし何かがおかしい。男の子と女の子のリズムが微妙に違っている。まさか……

 そう――犬鍋九十九と男の子と女の子の”3人のジャンケン”ではなく、
 男の子は男の子・女の子は女の子のそれぞれ異なったタイミングで、
 犬鍋九十九と”2人のジャンケン”が2組同時に始まっていたのだ――!
 何故わざわざこんなことを始めたのかは分からない。分からないが、
 左右で異なる文字を書くが如く、右手で男の子と・左手で女の子と、
 異なるタイミングに慌てふためき、異なる勝敗に一喜一憂するなど
 多少パニックを起こしながら別々のジャンケンに臨む犬鍋九十九。

 そしてこの戦いは、まさかの3人目の男の子が出現することで、
 2本の手で3人の相手をするという世紀の大混戦へと発展していくのであった。
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犬鍋九十九
Posted by 犬鍋九十九
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